2009年12月6日日曜日

B④:一瞬が永遠

凄く近くにいる。
本物だ。


あれがスタンリーだ。
やはりでかい。
本物だ。
本当にいたんだ。
俺は同じ世界を生きていたんだ。



3人はステージに上がる。

チックコリアのバンドなんで、彼が代表で挨拶。


ブルーノート東京が好きとか、12回目とか、そんなことを言ってた。


そんでチックコリアが最後に言う。



enjoy…………myself.




演奏が始まる。
チックの軽快なピアノ。


スタンリーはウォーキングベースみたいなフレーズ。


レニーはブラシを使ったプレイだった。



最初は何の曲だったかわからない。
知ってるような知らないような。


それぞれがソロを披露。



チックのキレのいい左手、滑らかな右手。
そんで絶妙なペダリング。
ピアノのことは全くわからんのだが、すごいのはわかった。


コリアのソロはそりゃよかったんだが、俺はピアノソロのときもずっとスタンリーを見てた。


なんて軽やかな運指。
当たり前だけど音粒もびっちりだし。


ソロのときの3フィンガー。

映像で何度も見た。

ホントに信じられない速さ、持続。
でも直にみちゃったんだ疑いようがない。

フラメンコもちょっと見れた。
俺が17歳のとき衝撃を受けた弾きかた。

血を流しまくった。
懐かしい。


俺はいつかはスタンリーみたいに弾きたいと思い、その光景を焼き付けた。
脳ミソの特別なとこにしまった。



レニーのソロ。

俺は個人的にドラムソロってのはすきじゃなかった。

連打を披露するのはいいけど、そのせいで世界観が崩れちゃうことがよくあるからだ。


でもレニーのは違った。

俺たちが知らないリズムを叩くんだけど聴いててかっこいい。

なによりパワフルだ。

いつまでも見ていたいようなスーパープレイだった。


言葉にするとかえってチープになるやもしれん。
でも一応ね。




1曲目で既に頭はビリビリくる。
感動しっぱなし。




だけど次の曲で更に俺の頭はビリンビリン。


なんとあの名曲Waltz For Debbyをやってくれた。


当然俺も大好きな曲のうちの1つだ。
まさかRTFバージョンが聴けるなんて。


かっこよかった。
スタンリーの暖かいベースが印象的。
タメがすげぃ。


これもインタープレイってやつか?
たぶんそうだよな。対等だよ。
それで成立させるってのがさすがだよ。



チックコリアはなかなかお茶目だ。
マイク入ってないふりして口パクで喋る。

一通り口パクったら、ゲスト登場。
あんま聞き取れなかったけど、確かコリアって聞こえたから、たぶんチックコリアの妻だろう。
キスしてたし。

でもあっちの文化は家族でもするじゃん。
だから確信は持てないんだけど。

たぶん妻。
そんな気がする。




なにをするかと見てたらマイクを持つ。

するとSomeday My Prince Will Comeを歌ってくれた。

なんでこうも俺が好きな曲ばっかやってくれるんだろう、とラッキー気分。

この曲はマイルスのもビルエバンスのもすき。



歌が上手い。うますぎる。
俺こんな上手な歌初めて聴いた。


ブラ坊。



その後もたくさんの曲をやってくれた。


知ってる曲もちょいちょいあった。
No Mysteryとか。

ピアノに絡むドラムとベースのユニゾン。
おそろしいよ、鳥肌もんだよ。

特にドラムとのユニゾンをよく覚えてる。
レニーはテクさんだよ。





俺の好きなピアノのフレーズ。
CDで聴くのとは別物。
冗談抜きで異世界に飛ばされるかと思った。




スタンリーのアルコも聞けた。

昔読んだ記事でなんだけど、スタンリーがアルコはむずいと言ってた。

なんのことねぇ、最高だ。


会場を包み込むような柔らかい音色。

ベース1本でここまで出せるんだ。
すげぇよ。


アルコ見れてほんとよかった。



曲中にEl Bayo De Negroをやってくれた。スタンリーの有名なソロだ。

俺はこれを聴きにきたと言っても過言じゃない。

アルペジオから始まる。
この時点で異常。
とても4本弦の楽器とは到底思えない深み。


そこから緩急をつけた展開。

ただのオクターブフレーズでもスタンリーの奏でる音は迫力が違う。


高速3フィンガー、ペンタトニックスケール。
目が離せない。


スピードも全く落ちない。
驚異的なスタミナ。


キメのコード弾き。

響き渡るその音は、俺の体全体を貫いた。

感動のあまりちょっと泣きそうだった。



観客の一部が奇声に似た歓声をあげる。


ちょっとまて!!
スタンリーの曲はここで終わりじゃない!!
黙ってくれ!!

俺は祈った。



しかし、その祈りも虚しく観客は変なタイミングで奇声をあげる。


スタンリーは珍しく十八番のフラメンコと高速ゴーストノートをやらなかった。



もしかして、こいつらのせいか…
とも思ったが、ちがうかもしれない。


うーむ……



気を取り直して曲に集中することにした。



俺は音楽聴くためにきてるんだ、怒るためにきたんじゃねぇ。





曲を演奏しきって、1度はステージを降りたもののもちろんアンコールで再登場。


さっき歌ってくれた女性もまた登場。

ジャズの歌モノはあんま聴かないが、今回から好きになったってぐらい素敵なステージだった。


会場が盛り上がるよ。
本当に素敵な歌声だったんだから。



そして次が最後の曲だった。



チックコリアがピアノを鳴らす。

同時に歓声が上がる。


そう、名曲Spainだ。


終わりに相応しい。楽しい曲。



チックが客を煽る。


俺も他の客と一緒にラララーと歌う。
1人だけど歌う。
関係なかった。
ただ楽しかった。


そして夢の時間は終わる。


ステージの中央に3人集まって握手。

そして最後の挨拶をしてくれた。


チックコリアは『ドウモアリガトウ』と上手な日本語。



俺達はみんな総立ちで彼等を拍手で見送った。



スタンリーを生で見れてよかった。
また見れるといいな。
また3人で日本にきてね、と思った。



スタンリー目当てで来たのは間違いないが、完全にRetturn To Foreverというトリオのファンになってしまってた。


チックとレニーにも釘付けだった。




耳がついててよかった。
足があって、手があってよかった。



こんなに素晴らしく素敵な時間をすごせたなんて。



俺は命に感謝した。


そしていつか自分もあんな音がならせたらな、と。


帰ったらベースの弦を張り替えよう。
きれいに掃除してやろう。




そんな気持ちになった。










つづく

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